千年の杢−木地師・田中正夫

工芸作家ではなく職人として

田中正夫

田中正夫(たなか・まさお;正峰)

「良い材料を見つけたい。自由な時間に良いものをつくりたい。そのため工芸作家としての活動は控え、自立した木地屋(木地師)として制作・企画・販売に専念しています」

思い出に残るカーター元大統領

欅盆の贈呈カーター夫人に贈呈される欅盆

創業して以来、最も印象に残る出来事といえば、カーター米元大統領の来店です。昭和59年5月、縁があってカーターご夫妻が富山に来県し、井波町にも立ち寄られました。当工房にあった欅の盆を町がたまたま買い上げてご夫妻にプレゼントしたのですが、問題はこの先です。

カーターさんは初め、町内の刃物屋さんに立ち寄ったのですが、そこで思いついたように「あの盆を作っているところを見たい」と言い出したというのです。何でも親か祖父が木の仕事をしていたらしく、木工には興味があったのでしょう。全くの予定外の行動で、町役場の職員が慌てて私の店に来て「カーターさんがやってくるので実演してくれ」と頼みました。

当時、井波町の中心部に共同で店を構えていました。私は、ガラスケースの中の轆轤で仕事を始めました。そのうち、店の中に人だかりができました。ガラスケースの中では、顔を挙げてあいさつするのも変だと思い、一心に木地を挽きました。

私自身は、カーターさんの顔をみることさえできませんでしたが、木工を愛する心は通じたのではと思っています。日本の木地師の手仕事を間近でみていただいたというのは、大変光栄なことでした。

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