木の質感を追求した茶筒や盆

木目−木霊が刻んだ命の記憶

欅盆欅盆(径1尺6寸)

「美しい木目」とよく言います。今どきの木造住宅では随所に木目を印刷した樹脂合板が使われています。それでも多くの人はその木目を手がかりにそれなりの安らぎを感じています。なぜ、木目があるとそう感じるのでしょう。

私たち人間は太古から樹木とともに暮らしてきました。その記憶が、無機質な素材が全盛の現代においても、DNAのように残っているのではないでしょうか。ただ感性は間違いなく鈍くなりつつあります。木目を印刷した樹脂などは、現代人の知恵といえばそうなのでしょうが、木目の多様な美しさや木の本当の肌触りや質感を味わえる機会は減るばかりです。木目には、単に美しい木目だけでなく、上品な木目、躍るような木目、うねる木目、縮む木目などさまざまなものがあります。昔の人はそれらに○○杢などと名をつけ、銘木として取り扱ってきました。→詳しく

木目に安らぎを感じる、とはどういうことなのでしょうか。木目というのは、樹木という生物が樹齢を重ねた証です。木霊が刻んだ命の記憶といってもいいでしょう。それらの多くは人間よりもずっと長い歳月を生きてきたはずです。そのことに、人は無意識のうちに心を癒されるのかもしれません。

木取りが木目を引き出す

画像欅玉杢の柱を木取りする
白太をどう生かすか長考

木目とは何か。国語辞典には「木の切り口に見られる模様。木理ともいう」とあります。木材の専門書では、木理と木目をはっきり区別しています。木理は立体的にみてとらえた細胞の並び方や配列をいい、通直木理や旋回木理(螺旋木理)、斜走木理、交錯木理(交走木理)、波状木理などがあります。これに対して、木目というのは伐った材面の模様をいいます。同じ木理であっても、伐り方次第で木目はいかようにもなるのです。

立木を伐り、四角に製材し、さらに工芸品に加工する各過程で、木取りをする人々の感性が木目の妙味を引き出すといってよいでしょう。どんなに素晴らしい巨樹・老木でも、料理の仕方が悪いと木目は冴えず、風格のあるものに仕上がりません。

木目はいったいどうしてできるのか。この問いに答えられる人はそう多くないはずです。「四季があるから」ぐらいは考えつくでしょう。では、うねるような素晴らしい杢はどうしてできるのか。老木の気まぐれでしょうか。いいえ、そうではないようです。樹木はスマートな生き物です。環境に適応し、法則に基づいて生長した結果が、杢目となるといいます。

木の樹皮の少し内側に形成層という部分があり、そこから生長した層が樹心に向かって重なっていき細胞が木質化していきます。春から夏にかけてできる層を早材、夏から秋にかけてできる層を晩材といいます。早材と晩材の境目(冬眠で活動が止まる時季)が、色の段差を生み、成長輪(年輪つまり木目)となるのです。四季を通じて生長する熱帯林の木の木目がはっきりしないのはこのためです。

育った環境を映す木目

木目はなぜうねるでしょうか。それは、何十トンから何百トンにもなる巨体の自重と、育つ環境に左右されます。枝や葉が多くなるにしたがい、風や雪の影響を受けやすくなり、木はバランスを保とうとします。木の内部に働く力を内部応力といいますが、その応力を表面全体に均一に分散させるように、内部の細胞の生長をコントロールするのだそうです(マテック氏・クーブラー氏著『材−樹木のかたちの謎』によると、樹木の力学的な自己最適化には5つの法則があるといいます)。風のいつも強い場所であれば、風になびく側に幹は倒れ、それを支えるように細胞を生長させます。大木となると、自分の重みを支えなければなりませんから、根際では皺をよせたりしますし、年輪幅も当然小さくなります。

長く風雪に耐えた木の材面は、細かくうねる木目がそれを如実に表しているといえましょう。ケヤキの場合、厳しく貧困な環境に育つほど、逆に木目が細かく美しくなります。日当たりの良い肥えた土地で、他の木との競争もなく育つ木は、年輪幅が広く、堅くなります。

巨樹・老木というと、天然記念物をイメージする人が多いことでしょう。天然記念物の指定を受けた木というのは、ほんのひと握り、樹木界ではエリートです。木の国ニッポンには、特別な大きさではない、名もなき巨樹・老木はたくさんあります。それらが立木としての命を終え、銘木という材料となって、木工に携わる我々のところに回ってくるのです。「樹齢千年の木だったら千年生かさないと木に申し訳がたたない」といったのは法隆寺棟梁の西岡常一さんですが、銘木を扱う者は同じような思いで仕事をしているのではないでしょうか。

姿を消す杢の材料

銘木は「木の宝石」などと呼ばれ、木の国ニッポンの美意識の中で根付いてきました。しかし、半分冗談で言うのですが、もはやダイヤモンドより希少になってきています。ダイヤモンドは全国各地至る所にある宝飾店で買えるでしょうが、杢の美しい銘木はそう簡単に手に入れられません。銘木はふつうの材木店からはほとんど姿を消しつつあるのです。特に欅の杢物を取りそろえた「銘木店」はここ20年で本当に少なくなりました。

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