- 桑くわ …… Japanese Mulberry
役に立つ木として古くから家の回りに植裁されてきた樹木です。木をよく知る人は、これを使うと長寿になるといい、いわば通の素材といえましょう。桑の根は桑白皮(そうはくひ)と呼ばれる生薬として知られています。漢方では、消炎、利尿、鎮咳などの効能があるとも言われます。また、桑の実は桑椹として、利尿・強壮剤として生で食べられたり、焼酎に漬けて薬酒にしたりされます。桑の葉は、もちろん養蚕に使われ、桑茶の原料になります。
ヤマグワが正式名。トウグワ(マグワ)という中国原産種があり、養蚕用の交配品種も多いそうです。かつて、伊豆諸島産のものは島桑といって、珍重されました。
最近は大変少なくなりました。特に目の細かいものにはなかなかお目にかかれません。手入れをすればするほど艶やかになり赤茶色が濃くなってきます。
茶箪笥や茶道具の材料としては最高級とされます。木魚の材でもあります。
[データ]クワ科。広葉樹。落葉高木。北海道・本州・九州・四国・朝鮮・中国に分布。環孔材。気乾比重0.52-0.75(平均0.62)。
- 槐えんじゅ …… Maackia
イヌエンジュが正式名です。東北や北海道に多いとされます。中国原産で、仏教伝来とともに植えられたとされます。きへんに鬼と書き、魔よけになるともいわれ、愛されてきました。延寿とも書いて、長寿を祝う木とみられています。昔はタバコ盆に用いられました。当工房では、盆・茶筒のほか灰皿に加工します。
ニガキと呼ばれ苦味成分があり、つぼみは漢方薬に、樹皮や葉は染料になります。
[データ]マメ科。広葉樹。落葉高木。北海道・本州・四国・朝鮮・中国に分布。九州には少ない。環孔材。肌目は粗い。気乾比重0.54-0.70(平均0.59)。寿命は短く100年ぐらい。
- 栃とち …… Japanese horse-chestnut(Aesculus turbinata)
挽物木地に、大変よく使われます。材そのものはやや柔らかく削りやすいのですが、白木のまま使うことはなく、漆を拭いて仕上げるのがふつうです。
絹糸のような光沢のある縮杢(ちぢみもく)という素晴らしい材もあり、「一寸八縮」というのが最高の縮杢とされます。しかし、その加工はよほど注意深くなければ、漆を塗った後に粗が目立ってしまいます。心材の赤身が嫌われる木です。
[データ]トチノキ科。広葉樹。落葉高木。北海道南部・本州・九州・四国に分布。東北に多い。散孔材。気乾比重0.40-0.63(平均0.52)。肌目は精だが、材は軽軟。心材と辺材の区別が不明瞭。
- 栗くり …… Japanese chestnut(Castanea crenata)
硬い木で、水に強く腐りにくいことから枕木などに用いられます。通常は白っぽい材ですが、神代栗は黒となります。同じブナ科のカシ類は硬くても比較的水に弱く神代もほとんど無いと言われます。
挽物に使うときは、漆を塗るのがふつうです。
[データ]ブナ科。広葉樹。落葉高木。北海道南部・本州・九州・四国に分布。東北に多い。環孔材。気乾比重0.44-0.78(平均0.60)。
- 樟くす …… Camphorwood(Cinnamomum camphora)
日本書紀に「舟に用いる」との記載があるように、古来よく知られた樹。飛鳥時代、最古の木彫仏は樟であったといい、現在でも木彫材料としてよく用いられています。中国名で楠はタブノキを指します。
強いショウノウ(樟脳)の香りに特徴があり、防虫効果があります。
[データ]クスノキ科。常緑広葉樹。本州中南部・四国・九州・台湾・中国に分布。散孔材。気乾比重0.41-0.69(平均0.52)。
- 一位いちい …… Japanese yew(Taxus cuspidata)
かつては鉛筆用材として、飛騨の一位一刀彫などでよく知られていた材ですが、近年めっきり流通しなくなりました。
昔、神官が君命を受けるとき、間違えないように薄板に君命などを書きとめ目の前に掲げたといいます。君命は第一位に重要なので、薄板に使われた木が一位と呼ばれるようになったそうです。また、その長さがちょうど1尺だったので笏(しゃく)と呼ばれました。関西ではアララギと呼ばれます。
当工房で扱う材としては珍しい針葉樹材です。
[データ]イチイ科。針葉樹。北海道・本州・四国・九州・朝鮮・中国に分布。別名オンコ。気乾比重0.41-0.51(平均0.48)。
- 栓せん …… Kalopanax pictus(Castor Aralia)
ケヤキの代替材として知られ、やや格下の材ですが、時として素晴らしい杢に出会うことがあります。柾目の木目間隔が狭いものを糠栓(ぬかせん)といい、板目で硬いものを鬼栓(おにせん)または棒栓(ぼうせん)といいます。
[データ]ウコギ科。落葉広葉樹。環孔材。北海道・本州・朝鮮・中国東北部に分布。別名ハリギリ。気乾比重0.40−0.69(平均0.52) 。