千年の杢−木の質感を生かした器

木がもつ自然な艶とは

最も細かい番手のサンドペーパーを当て圧搾空気で吹き飛ばし、ほんのわずか布で拭き上げてロクロを止める……。摩擦熱で温かい木肌は、濡れたような艶を宿しています。が、木肌は次第に埃を吸着し光沢は落ちていきます。ロクロを止めた一瞬の光沢は、木地師だけが味わう恍惚とも言えましょう。

角盆木の艶を写真で表現するのは困難
(欅角盆No.3048)

木の艶とは何でしょう。素木の器をみていて、なぜこんな艶があるのか驚かれたことはありませんか。表面の光沢とは違う杢間に潜むような光沢、それこそ木本来の艶なのです。写真ではなかなか表現できにくい輝きです。木本来の艶に気づいたときこそ、漆器とは違う木の器の奥深い魅力の入り口に立ったときです。

艶や光沢は、木目と同じで、なかなか数値化できません。光沢計で測ると、木の場合は測定値以上の光沢があるとも言われています。細胞の無数の内こうが面となって光を反射するからだそうです。光沢は、鏡面光沢と絹糸光沢の2種類に分類されます。鏡面光沢とはガラスや氷のようなぎらつく光沢であり、木はシルクのような絹糸光沢と言われています。

漆器やウレタン塗装の器はたいてい光沢があります。実は、それは漆や塗料の鏡面光沢を見ているのです。ピカピカしているため目を奪われ、木そのものの自然な艶は見えにくくなっています。塗装を前提にした素地調整は240〜400番というサンドペーパーで仕上げるのがふつうです。まだまだ面は凸凹です。塗料を塗って塗膜面を磨くことで、表面をフラットに仕上げます。木の表面はざらざらしていた方が塗料のノリが良いのです。塗膜が平らになれば表面光沢は出せるという理屈です。

素木のまま光沢を得ようとすると、さらに微細なサンドペーパーで平滑面を仕上げる必要があります。私の場合、研磨作業に旋削作業と同じかあるいはそれ以上の時間を要してしまいます。細かい番手になればなるほど逆に傷が目立ってくるのですから厄介です。やみくもにサンドペーパーを当て続ければ平面が逆にダレてしてきます。サンディングは、一見簡単に見えて、技量がはっきり出る難しい仕事です。

さて、木の艶を保つにはどうすればよいのでしょう。布で拭くという単純な手入れでよいのではないかというのが私の考えです。木によっては、仕上げた後にアクとして天然の樹脂分が染み出してきます。それは拭き上げて手入れするしかありません。濡れた布巾などで拭くと、表面が水分を含み毛羽だって光沢が失われます。それも結局繰り返し拭くことで、平滑面が戻り、光沢も蘇ってきます。

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