千年の杢−木の質感を生かした器

挽物工芸の方向性

盆の模式図

全国ろくろ木工芸展に出品された挽物を見ると、現代の木地師が目指している方向が見えてきます。そのひとつは、挽物の技そのものを極める道です。石川県山中町を中心に発展した千筋挽きや薄挽きなどの加飾技法、遊環技法といったろくろ挽きの技巧は、素晴らしいものがあります。日本挽物工芸の一つの到達点がそこにあるといえるでしょう。さらに、ろくろ挽きの技に加えて、象嵌や彫刻といった境界にある技を組み合わせ、より高い次元の美を目指す木地師も少なくありません。挽物そのものはもともと表現の幅が狭い工芸分野ですが、モダンな感覚で新しいデザインを切り開こうという果敢な挑戦です。轆轤作品は真円形にならざる得ません。その呪縛からの解放を目指しているようにもみえます。

私はしかし、こうした方向とはやや違い、材にこだわり材を生かす道を目指しています。「木を回して削る」というのが挽物工芸の原点でしょう。その原点に立ち返る時、あらゆる挽物には、

  1. 木が歪まないだけの適度な厚みに削り出す
  2. 木の器として、手にした時にバランスがとれた形状にする
  3. 平面とすべき箇所は限りなく鏡面のように仕上げる

などの基本があります。まず、それを押さえたいのです。

木目を生かすことを第一にするなら、装飾はおのずと抑制することが求められるとも考えています。いい木目の材料はそのものが美しいのです。畏敬の念にかられるほどの材に巡り会った時、人間の技は自然に謙虚になるのでないか、というのが私の考えです。

よみがえれ挽物工芸

近年、ウッドターニングという趣味としての木工芸が盛んになってきました。全世界に広がる動きで、日本国内でも木工旋盤を使うアマチュアが増えているようです。中には、プロの木地師の仕事に迫る素晴らしい作品も見かけます。

木地師は後継者が育たず、衰退の一方です。もはや産地間競争と言っている場合でないかもしれません。そうした状況で、アマチュアの活躍は本当に心強いものがあります。こころある人は、是非、プロの木地師を目指していただきたいと願っております。

全国ろくろ木工芸展

全国ろくろ木工芸展は、数年に一度、富山県砺波市庄川町の庄川美術館で開かれています。1992年に第1回日本挽物展として開催され、1994年に第2回、1997年に第3回が開かれました。コンペティション形式ではなく、ろくろ工人の交流を目的にしています。

2004年10月から11月にかけて開かれた第5回は102人の出品がありました。盆や盛器など木の器が中心で、棗や茶入れ、茶櫃などの茶道具、こけしや独楽も並びました。第2回、第3回展は図録も出版され、現在も販売されています。

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