伝統の技、洗練したデザイン
挽物にとって大切なのは、フォルムです。私は、手に持った時の感触を最も大切にしています。実用を重視した簡潔で上品な形、これが茶道の神髄ともあうのです。また、シンプルなデザインは、和・洋・中、伝統とモダンの様式を問わず調和し、長く愛用できます。
実際、私が挽く丸盆や茶筒などには基本的にひな型というものがなく、その素材を見て直感的に決めています。例えば盆の場合、実用的なほどシンプルに、展示用であればやや飾った形にしています。
茶筒や茶入れは、内部を丁寧に刳りだし、厚ぼったくなく薄すぎもしない、適度な厚みに仕上げにしています。蓋と本体の微妙な合わせ具合も、きつすぎず緩すぎず、十分に注意を払っています。
轆轤と木工旋盤を使いこなす
挽物木地をつくるための工作機械としては、轆轤と木工旋盤があります。轆轤は、広い意味での旋盤の一種です。狭義の旋盤は、回転軸の対面にテールストックと呼ばれる部分があり、長い棒状ものでも両側から支え回転させられます。それでは、旋盤があればすべて自由自在に削れるかというとそうでもありません。轆轤と旋盤、それぞれ得意不得意があります。一般に、轆轤では奥行きのあるものは刳りにくく、一方、木工旋盤は、自由で優美な曲面を削り出すのは苦手です。当工房では、この特性を把握して自在に使い分けることで、無理のない思いのままの形に仕上げています。
私が属する「庄川挽物木地」は、多くは横木(よこぎ)挽きで、轆轤に対して右側に座るのが「青島流」、左側に座るのが「塚田流」です。また、石川県の山中漆器の木地師たちは、縦木(たてき)挽きが多く、右側に座ります。どの産地でも熟練した木地師は、横木も縦木も挽けますが、やはり得手不得手ができます。私は「青島流」で、縦木横木どちらも挽きます。
不可逆的に削る厳しさ
轆轤を使い器をつくる工芸といえば、陶芸があり、ガラス工芸も材料を回転させる点でよく似ています。いずれも長い歴史と世界的な広がりがあり、奥行きも深い工芸分野です。木工轆轤は、それらと比べ、一般にやや地味な印象を持たれているのではないか。そう感じるのは、私の単なる僻みでしょうか。
おなじ轆轤の原理でありながら、木工轆轤には不可逆的に削るだけの工程しかありません。木工の中の指物や刳物、曲物と比べても、挽物は表現の幅が広くありません。これは、しかし、木工轆轤というものが、木という有機質の材を相手にする単純かつ厳しい工芸であるということなのです。
現代木工轆轤では、硬い材料を高速で回転させます。それに刃物を当てるのですから、危険が伴います。そして、材をわずかに削りすぎると、作品は駄目になることがあります。例えば、茶筒です。蓋と本体の合わせが、0.1mm削りすぎただけでも甘くなり、用を足さなくなります。季節や気候によって伸び縮みするのが木の宿命であり利点ですから、それを見込んで作らなければなりません。