- 欅けやき …… Japanese Zelkova(Zelkova serrata)
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玉杢は老木の証。樹皮をめく
るとこのような凹凸(モクハ
ナ)が現れ、板材にすると玉
杢目に。樹心に近いと消える国産針葉樹の代表が檜であるとするなら、広葉樹の代表はこの欅をおいて他にないでしょう。社寺などに用いられていることから、建材としての優秀さは疑う余地がありません。工芸用材料としては、むしろ檜よりもよく使われ、銘木の王道の風格があります。
魅惑的な木目
その最大の理由は、やはり魅惑的な杢目にあります。樹齢を重ねた欅は、人でいう皺が生まれ、永い歳月をかけて美しい模様を描くのです。風雪に耐えて厳しい環境でたくましく育った樹ほど、木目はきめ細かい模様になります。石の多い荒れ地ほどいいとも言われ、土壌も木目に関係するようです。
木目の引き締まった堅い材は、塗装しなくても、磨くだけで艶やかになります。さらに年を経るうちに趣がでてくるのです。挽物木地としては、最高の素材といえるでしょう。
特に、欅の玉杢は銘木の中でも最高級品とされますが、市場に出回る数は年々減っています。
中国産の欅をたまに見かけますが、木目はあまり細かくないようです。国産の欅は、四季がはっきりした島国・日本ならではのものといえるでしょう。欧米ではそれほどなじみがある木ではないらしく、オリエンタルエルム(東洋の楡)として認識されているようです。
欅によく似た感じの木にタモがありますが、タモの木目はあまりに整いすぎている感があります。その点、欅はドラマチックな動感があります。
アカゲヤキとアオゲヤキ
「アカゲヤキ」と「アオゲヤキ」という呼び方があります。この分類は大変厄介です。樹木学の専門家によると、アオゲヤキはケヤキの一種であるツキだといいます。ではケヤキとどう違うかというと、植物の器官に違いはないが、心材に赤みが少なく青味を帯び、材質が劣ったものであるといいます。青味をどう判断するかが難しいところですが、正直なところ判別できません。写真に示した4点は、銘木店によるとすべてケヤキ(アカゲヤキ)であって、アオゲヤキではないといいます。左端は比較的青く見えるものでもツキではないということです。アカとアオを樹皮や葉の大小、紅葉の色などで見分ける人もいるようですが、近年の研究では区別できないという結論に落ち着いています。とにかくケヤキという樹は個体差が極めて大きい樹種といえます。
こんなに違う。でもアカゲヤキ?
樹木学では、「ホンゲヤキ」と「イシゲヤキ」という区別もあるそうで、ホンゲヤキは木目が細かく年輪幅が均一で材質良好なもの、イシゲヤキは木目が粗く年輪幅が不揃いで材は堅く製材すると反張し材質不良なものをいうそうです。イシゲヤキは心材が黄褐色でホンゲヤキに比べて赤みが弱いといういますから、ツキ≒アオゲヤキ≒イシゲヤキという解釈のようです。(参考文献『図説実用樹木学』(1993))カワラゲヤキというのも、イシゲヤキと同類であろうと思われます。
日当たりの良い平地に育ったケヤキを地ケヤキあるいはサトケヤキ、山奥の谷間に育った目の込んだケヤキを下りケヤキあるいはヤマケヤキともいうそうです。ただ、木目が細かくなりすぎ道管ばかりが目立つ軽いケヤキはヌカ目と呼ばれ、材としては価値が低くなります。
植物図鑑の中には、アキニレの別名として「イシゲヤキ」「カワラゲヤキ」を掲載しているものもありますが、これは違うようです。
ホンゲヤキはあやふや
実際、私はケヤキはケヤキとしてしか扱ったことがありません。木材取引では「ホンゲヤキ」はほとんど耳にしません。ホンゲヤキというのは実にあやふやでちょっと危うい使い方だと思います。近年、材料表示で「本ケヤキ」「本欅」というのをみかけますが、わざわざ「本」とつけること自体、感心しない表現です。別の樹種を欅と称して売られていることに対して「これは本物」ということなのでしょうか。
綾欅(アヤゲヤキ)というのが、一世風靡したことがあります。宮崎県の綾渓谷は照葉樹林で有名であり、その地から産出したものを言います。銘木店によると縄目もちょっとあるといいますから、厳しい環境で育つ細かい木目の材なのでしょう。全国各地には、○○産の欅が良いという話があるのですが、○○杉とかと違い、欅という木は産地でひとくくりできるようなものではないような気がします。
杢物は減る一方
環境省が2000年に行った巨樹・巨木林調査によると、全国で幹回り3m以上の巨樹は、ケヤキが樹種別ではスギについで多い9452本でした。1988年には8538本ですから増えていますが、悉皆調査ではないので判明数が増えただけのことです。私の感覚では、少なくとも20年前と比べケヤキの自然木の供給量は間違いなく減っています。巨樹・巨木は簡単に伐るべきではなく保護すべき時代ですが、木工の端くれの私としては材としてめぐり会ったときは心して仕事をしなければならないと思っています。ちなみに現在、ケヤキの全国一の巨樹は山形県東根市の「東根の大ケヤキ」で、幹回り15.6m、樹高28m、推定樹齢1000年とされています。
未来は明るい?−街路樹としての再生
ケヤキは、なじみ深い街路樹でもあります。春のまぶしい新緑、夏の涼しい緑陰、秋の鮮やかな紅葉、冬の凛とした樹形。古代から「けやけき(すぐれた)」木といわれたのが名の由来とされるのもうなづけます。
ケヤキの街路樹が東京・原宿に植えられたのが大正9年(1920年)。以来、各地の街路樹や公園木として取り入れられ、近年では樹形があまり広がらない竹ほうき状の園芸品種がよく植裁されるそうです。この竹ほうき状のケヤキは、落ち葉や植裁スペースなどを考慮して育種された品種なのでしょうが、やはりちょっと貧相な印象です。広葉樹の代表格とも言えるケヤキは、枝を伸びやかに天に広げた樹形がふさわしいと考えるのは私だけでしょうか。広葉樹というのは、高さで生長を競う針葉樹とは異なり、葉の多さ、つまり樹冠を大きくして生長を競うように進化してきた木なのです。
街路樹としてはまだ百年にも満たない木に、杢目を期待するのは無理でしょうが、あと50年いや100年以後にはもしかしたら杢目の美しい街路樹のケヤキが銘木として出回るかもしれません。いや都会育ちでは杢があるのかどうか…。いろいろ想像をすると、ケヤキの未来は意外と明るいように思えてきます。
[データ]ニレ科。広葉樹。落葉高木。本州・九州・四国・朝鮮・中国に分布。環孔材。気乾比重0.47-0.84(平均0.67)。世界に5種ほど知られ、ゼルコヴァはコーカサス地方の呼び名が由来。宮城・福島・埼玉の県木。