茶筒のふたの加減−千年の杢

ティーキャディー

静かに閉まる合口の快感

茶筒の模式図

外ふたと本体の隙間からすーっと空気が逃げながら、ぴたりと合口が閉まる。茶筒がいいなと感じていただける瞬間です。これには、ちょっとした仕掛けがあります。ふたと本体、特に本体の立ち上がりといわれる部分です。

テーパーで加減を調整

理屈では、ふたも立ち上がりも完全な鉛直で隙間がないと空気が抜けずふたが閉まりません。そこで、立ち上がり部分に微妙なテーパー(傾斜)を施してあるのです。合口に近い部分(閉まり際)が、わずかにぎゅっという感じで閉められるようになっています。

このほかにも「仕事の逃げ」があります(観察してみてください)。これは手抜きではなく、きちんとした見掛けを保つための知恵なのです。

こうした茶筒のつくりに、私の場合、設計図などありません。長年つくり込むうちにこのカタチに落ち着いたのです。木の茶筒だけでなく、金属や樺の茶筒などでも、良い物はこれに近い仕組みを持っていることでしょう。

程良い閉まり加減とは

本体とふたが重なる立ち上がり部分を削る工程は、最も神経を使います。格安の規格品では、この部分がガバガバだったりします。量産するにはこの部分にそれほど時間をかけるわけにいかないのでしょう。漆を塗るならそれも加味して甘くしておく必要もあります。

むろん緩い合わせが悪いわけではありません。棗などの伝統的な蓋物はもともと緩いものです。しかし、茶筒の場合は防湿性や密閉性が期待されるわけですから、しっかり閉まる方が良いと思います。その加減の目安を表に示しました。

茶筒のふたの閉まり具合の目安
ガバガバ 外ぶたを左右に動かすとかたかた音がする
緩い(甘い) 外ぶたをつまみ上げると外ぶただけが持ち上がる。外ぶたを被せると、その自重で外ぶたがゆっくり閉まる
やや緩い(やや甘い) 外ぶたをつまみ上げると本体も持ち上がり、本体の自重でゆっくりと本体が落ちる
ふつう 外ぶたをつまみ上げると本体も持ち上がる。ほんのちょっと手を添えるだけで本体が抜ける
ややきつい(やや固い) 外ぶたをつまみ上げると本体も持ち上がる。外ぶたを回しながらわずかに力を入れると本体が抜ける
きつい(固い) 外ぶたをつまみ上げると本体も持ち上がる。外ぶたを回しながらかなり力を入れると本体が抜ける

木の味わいを重視するなら

合わせの加減は使う人の好みというべきですが、3、4、5あたりにおさまるのが良いでしょう。

金属の茶筒の場合、「ふたの上にコインを載せるとすーっと沈む」「ふたの自重で秒速0.5ミリで沈む」とかいう話があります。木の茶筒では、そうも精度を追求できないものです。確かに木の場合でも、0.05ミリの削りで閉まり具合の感触に違いが生じます。その感触はしかし、極めて微妙なことに変わりうるものです。木は必ず伸び縮みしますから、梅雨の時期に良いと思っても乾燥した時期ではややきついことがあるのです。その変動幅は材質によっても微妙に違いますが、おおむね、4が5になったり5が4になったり1段階動くかどうかのレベルで、5が3になることはまずありません。したがって、合わせというのは、3、4、5におさまる中で、ある程度妥協しなければならないと思います。

その妥協の余地がないという方は、漆器など選ぶべきです。漆を塗れば木の伸び縮みは抑えられます。木の味わいを犠牲にしても、器としての精度はかなり保たれます。

もう一つ、内ぶたにも仕組みがあります。内ぶたをどこで留めるか(本体の底に落ちないように支えるか)がポイントです。内ぶた自体を階段状加工するのが一つの方法です。もう一つは本体を階段状にする方法です。そう大差はありませんが、当工房では基本的に後者の方法を採用しています(茶入れでは前者)。見た目がシンプルで、外ぶたを開けるときに影響を受けにくいからです。

内ふたのつまみに轆轤の技

茶筒のデザインはいろいろあるでしょうが、私はシンプルな外観と内ふたのつまみの優美さにポイントを置いています。外観はシンプルと言っても、甲面をわずかに曲面に仕上げ、あとはエッジを生かして、品を保っています。シンプルさは一見味気なさでもあるのですが、外ふたを開けると、そこには内ふた溝の美しいカーブとつまみがある。そこに作り手の意図があります。このつまみ部分こそ、木工轆轤でつちかってきた手技そのものです。固定バイトではなかなか挽けないことでしょう。茶筒のかたちを見比べるとするなら、甲面と内ふたのつまみ部分がチェックポイントです。

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